ドイツ工房見習い修行 ~2011年秋・出張報告 Part3

Part1,Part2と前置きが長くなってしまいましたが、
おそらくこの記事を読んで下さっている方々の多くがもっとも関心の高いと思われる卒業生が勤める工房の様子を、今回はお伝えしたいと思います。

Lutzel Markus工房


Wurzburgの中心街、マリエンベルグ城塞を臨む通りに手戸さんが勤める工房はありました。

Lutzel Markus工房外観(1階)

工房の中に入る前に、親方(マイスター)であるルッツェル(Lutzel Markus)氏について少しふれたいと思います。
ルッツェル氏は、手戸さんのように、職業研修にあたるAusbildung から職人の道に入った経歴をもっているそうです。


手戸さんが日々お世話になっている
マイスター・ルッツェル


マイスター・ルッツェル時歴
Konrad Stoll氏のもとで3年間見習いをした後、職人試験合格し、その後さらに1年間Konrad氏の工房で働いた後、VStietencron氏のもとで2年半、フランスのJean-Clristophe Graff氏のもとで3 年半研究を積み、1993 年にマイスター試験に合格し、同年にもWirzburgで独立し今日にいたる。


ルッツェルさんとは初対面でしたが、偶然、私(高倉)の師匠が昔、ルッツェルさんと同じ時期にV.Stietencron氏のもとで学んだことがあるということで、その縁もあって、最初からずいぶん打ち解けてくださったように感じました。

弦楽器の世界は狭いので、入り口に入るだけで世界中のいろいろな人と不思議なつながりをもっととも珍しくありません。
ルッツェル親方も話をしながら、弦楽器の世界は「It’ s a Small World! J と笑いながらお話されていました。

余談ですが、ルッツェルさんは自転車が好きということで、なんと前々日まで行われていたイタリアのMondomusicaには自転車で行かれたそうです(!)。


工房の様子


さてルッツェルさんの工房ですが、手戸さんの他にも同時期に入った同僚のフィリップさんがいます。
フィリップさんはミッテンヴァルトの学校を卒業したばかりということで、
手戸さんもたびたび学校時代のノートなどを見せてもらっているとのこと。
手戸さんも
「(Ausubildung という職業訓練の道を選んだことを)同僚にも恵まれていろいろと教えてもらえるので、よかったと感じています。」
と話していました。

工房の中の様子

背を向けてチェロのセットアップをしているのが同僚のフィリップさん、
手前は週2日来られているお手伝いの方です。

ちょっと一休み。マイスターじきじきにカプチーノを入れて下さいました。

工房にはカフェとも見紛う木格的なエスプレッソマシーンが備え付けられていて、美味しいコーヒーをいただきました。
作業は、窓際の奥の席にマイスター、手前にフィリップさん、真ん中の作業台を手戸さんがふだんは使っているそうです。

一休みすれば、また仕事です。

私が訪問させていただいている間にも、何度もお客さんが足を運び、工房の盛況ぶりが伺えました。
また、お客さんとのやりとりの様子から町の弦楽器技術者として、お客さんからも弟子たちからも信頼されているルッツェルさんの様子を伺い知ることができました。



急ぎ仕事! (午後には納品)チェロの磨きを行うマイスター


駒立て作業中の手戸さん

セットアップ行うフィリップさん

仕事の主な内容としては、修理・修復が多いということでした。
残念ながら写真はとれませんでしたが、かなり大掛かりな修理作業の様子も見せていただきました。

またルッツェルさん自身がフランス語が堪能ということもあり、ドイツ製の楽器が占める割合が多い一般的な工房に比べ、良質なフランスの楽器も数多く扱っている様子を見せていただきました。


なぜ見習いを受け入れたのか


さて、忙しいお仕事の合間を縫って、私からいくつかの質問をマイスターにしてみました。
一番聞きたかったのは、「なぜ、手戸さんを雇うことにしたのか」ということです。
マイスターの答えは明快でした。
「ちょうど人を探している時に手戸さんに出会い、手戸さんの希望と私の考えが一致し、かつ手戸さんに熱意が見られたから。」
というものでした。

一般的に見習い(Ausbildung)の時期には親方のもとで楽器作りを行うことが多いそうですが、
手戸さんはもともと将来修理・調整の仕事をやっていきたいという夢をもってドイツに渡りました。
そのため、見習い期間には製作よりもむしろ修理・調整に挑戦したいという思いをもっていました。
この点が、偶然、その時期に工房で働いてくれる人を探していたマイスターの必要などと一致したのです。

偶然といえばそれまでですが、手戸さんが見習い先を見つけるまでの試行錯誤する様子を報告してもらってきた私にとっては、双方の熱意があったからこそ巡り会わされたもののように感じました。
マイスター自身も単身ドイツに渡り、自ら工房をまわった手戸さんの熱意を評価されていました。
そして、実はマイスター自身にとってもGeselle (職人)ではなく、職業訓練生(Auszubildende)を受け入れるのは初めてのことということで、手戸さんはLutzel Markus工房の初めての見習い弟子となったのでした。


マイスターを囲んで

マイスター・ルッツェルから、今後、弦楽器技術者を目指す若い方々へのメッセージもいただきました。
ぜひこちらの動画もご覧になってください。



出張を振り返って・・・

『すべてが決まっていた道を進んだわけではなかった』


今回の出張を通し、いろいろなお話を手戸さんから聞くことができ、ここまでの道のりが決して簡単ではなかったことを改めて感じました。
その中で、一つ印象に残ったのは、手戸さん自身が案内をしてくれる中で、「すべてが決まっていた道を進んたわけではなかった」と話していたことです。
途中、一時帰国中の日本での震災や、慣れないドイツでの病気など、様々なことがありましたが、
目標は確固としたものを持ちながらも、それを実現する道程は柔軟に選んできた様子が伺えました。

最後になりましたが、忙しい中、お時聞を割いてくださったマイスター・ルッツェルと、
後輩のために情報を提供してほしいという申し出に快く応じ、
案内と通訳に時間を割いてくれた手戸さんの働きにこの場を借りて改めてお礼を伝えたいと思います。

手戸さんが職人(Geselle)としての資格を得るときにはまたドイツで再会したいです。
それまでお互いがんばりましょう!!


【特集】職業訓練(Ausbildung) への道


この記事を読まれている方の中には、将来留学や海外での見習い修行を希望されている方もおられると思います。
今回情報提供に協力してくれた卒業生・手戸さんの代官山時代を振り返りながら、可能性の扉を開くには、どのような準備が必要だったか、また渡航後にどのような道筋を辿ったか確認してみました。

  1. 島村楽器テクニカルアカデミー入学まで

    1. 高校生のときに、製作家・菊田浩氏に留学を相談
    2. 菊田浩氏の勧めにより、島村楽器テクニカルアカデミーに入学を決意

  2. 島村楽器テクニカルアカデミー時代
    バイオリンクラフト&リペア科(本科)の力リキュラムと併行して以下に取り組んでいました。

    1. 規定の力リキュラムをこなしつつも、講師と話し合い、希望の進路に沿った勉強(技術習得)を意識して受講を進める
    2. 語学学校へ週2回(1回2時間半のコース)に通い、ドイツ語を学ぶ
      (島村楽器テクニカルアカデミーでも、日報にてドイツ語で一言コメントを載せ、講師とやりとりしていました〉

    3. バイオリン演奏の練習を継続
    4. 講師や周囲の人に相談し、最初に渡航する都市、語学学校などの選定を開始。渡航前には語学学校の入学許可と学生ピザを取得

  3. ドイツ留学後
    ドイツ渡航後は、語学学校に通いながら以下の道筋を歩みます。

    1. ドイツの生活にまずは慣れるため、語学習得を中心に生活を送る
    2. 少し慣れてきたところで、技術の勘を落とさないために近くの工房へ通う
      (Ausbildung ではありませんでしたが、この頃フュッセンの工房でお世話になった時期もありました)

    3. 引き続き、周囲の人に相談しながら、自らいくつもの工房に足を運び、公的なピザを伴う受け入れ先となってくれる工房を探し歩く
    4. Lutzel Markus工房に職業訓練生として受け入れられる

※記事を読んでのMarkus 工房や卒業生への直般の問い合わせ等は、お仕事の妨げになりますので、ご遠慮くださいますようお願い申し上げます。

留学・職業訓練の問い合わせについて

当校では、学校説明会、オープンキャンバスなど、において、本科及び夜間科の受講案内とあわせ、希望される方には、留学提携や当校における留学実績等のお話もさせていただいております。(留学、職業訓練渡航の斡旋はしておりません)
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