DRUM TECH STORY第3話“不思議なシンバル”

3話01
夏のある夜の事、マンハッタンのセントラルパークの西側で行われているジャズのジャムセッションに行った。
それはレストラン・バーでのセッションで “飛び入り”で演奏出来る場所だった。
一般の客が食事を楽しんでいる中、ミュージシャン達はバックヤードで待ち、名前を呼ばれたらステージに上がり演奏する。誰と何を演奏するかはその時まで分からない・・・腕試しにはもってこいの場所だ!

「シゲキ・タニモト!」と名前を呼ばれ、「イェス!」と返事をし、ステージに上がるとドラムセットと一緒に不思議なシンバルがセットされていた。そのシンバルは細長い亀裂のような溝が空いていた。
「これは何だ?変だな・・」と思っていると、サキソフォニストがカウントを取り始め演奏はスタートした。
5分・・10分・・15分・・20分、演奏は止まらなかった。
その間、その“変なシンバル”は心地良いサウンドを生み出していた。

その年の冬、それはリンカーンセンター(ジャズの殿堂)で行われていたジャズ展示会での事だった。
今は亡き巨匠達のサングラス、ペン、直筆の譜面、ドレス、ピアノ、トランペット、サックスなどが展示されていて、僕は「ウォー、凄い!」と興奮して見回っていると、その中にトニーウィリアムス(伝説的ドラマー)の黄色いドラムセットが展示されていた!
そのドラムセットの前に立て掛けられていた物・・端から大きく欠けているシンバル・・「何だ、このシンバルは?こんなに壊れていて、どうやったらこんなに欠けるんだろう?」と思ったがその時はよく分からないままだった。
3話02
更にそれから数ヶ月後、ブロンクスまで演奏を聴きに行った帰り道、先生が車で送ってくれている中の雑談で「シゲキ、知ってるかい?トニーウィリアムスのシンバルで大きく欠けたやつがあるんだ」と先生が話し出した。
「あっ!あのシンバルの事だ、知ってる」と僕。
先生は続けて「そのシンバルは他のドラマーが叩くとガラクタのような音がするんだが、トニーが叩くと凄く良い音で鳴るんだ。トニーはね・・・云々」と興味深い事実を喋ってくれた。
実はセッションで出会ったシンバルもトニーウィリアムスの欠けたシンバルも誰かが修理した物だった!

この頃からシンバルは修理出来る事、修理したシンバルは十分に使える事を知り始めた。
シンバルの修理・・それは日本に帰ってきた後、間もなく自分で始める事になった。