DRUM TECH STORY第4話“プロフェッショナルへの壁”

4話01
月日が過ぎ、アメリカ生活と学校生活も終盤に入っていた。
最後の学期は生徒達の間でも一目置かれている難しいクラス・・・受ける許可をもらえたのは僕を含め3名だった。
ニューヨークの街中でプロの演奏家として仕事をするための“最低限のスキル”を学ぶためのクラスだった。
「よし、ついにここまで来たか!」という誇らしい気持ちで新学期を待っていた。
そして・・・それは僕の想像をはるかに超えていた。

まるで段違いの厳しさだった。どれだけやっても結果が出ない。
「ストップ!だめだ。もう一回」「ホントに練習したのか!」「一体何をやっているんだ!」「いいか、次に同じ事をやったら俺は心臓麻痺で倒れるぞ!」たたみ掛けるような先生の厳しい言葉と圧倒的な圧力に戸惑い、肉体的、精神的に限界ギリギリに追い込まれた。
夜ベッドの上で「もしかして、もうここまでか・・」という恐怖と「ダメだ、ここで終われない。
このまま国へは帰れない。何とかしなければ」という焦りが渦巻く中、ただ静かに天井をボーッと見ながら横たわっていた。

ある朝、街角でいつものドーナツとコーヒーを買いながら「もうあれこれ考えるのは止めよう・・・自分らしく演奏しよう」と思い、無口なまま学校へ行きクラスへ入ると死に物狂いで演奏した。
どうやったかは覚えていないが、演奏が終わると先生が「Yah, man. Not bad. (ほう、やるじゃないか。悪くないぞ)」と声をかけてくれた。

その日以来自分の中で何かが変わり始めた。ドラムと音楽、そして何よりももっと自分と向き合えるようになった。
そしてクラスの最終日、突破しなければならない“プロフェッショナルへの壁”を迎えた。
それは絶対に成功させなければならないリサイタルだった。
友達のドラマー&ドラムテックが「どのドラムで叩く?シンバルはどれを使う?選んでいいよ、準備するから言ってよ!」と声をかけてくれドラムセットを用意してくれた。
満員のリサイタル会場で演奏は無事成功し、暖かい大きな拍手の中3人のドラマーが誕生した。
4話02
数日後、学校のロッカーの荷物整理をしていると最終学期を指揮した先生が向こうから歩いてきた。
僕から話しかけて「ありがとう、とても感謝しています」と気持ちを伝えると「どうだ、少しは強くなったか?」と聞いてきた。
「イェス」としっかり答えると同時にハッとした。もしや最初から分かっていて・・・先生はニヤッと笑い返し連絡先をくれ、ゆっくりと立ち去った。

帰国まであと少しとなり仲間と一緒にバーで“今後の計画”について語り合う事が多くなっていた。
国へ帰る者、ニューヨークへ残る者、皆それぞれ新しい生活が始まるのだ。
ビールを飲みながら仲間から「シゲキ、お前は何をするんだ?」と言われて僕は即答で「ピアノトリオをやる!ピアノラウンジでダイナミックに演奏するんだ」と公言していた。
そして帰国の途、飛行機の中でこれからの冒険にドキドキしながら眠れない夜を過ごした。