DRUM TECH STORY第5話 “コンパクト・ドラムセット誕生”

5話01
日本へ帰国した翌朝、静かな良い予感を感じていた。
年単位で国を離れていたために全ては白紙の状態に戻っていた。
それでも体の底で確かなエナジーと何かが始まる予感を感じていた。
学校や仕事に行くわけでもなく思ったのは「ドラムを叩こう・・!」早速近くの音楽スタジオに行きドラムを叩き始めた。
次の日も、そのまた次の日も毎日練習に通い始めた。そしてあることに気づいた。
街の音楽スタジオのドラムセットは信じられないほどハードに扱われている。
練習する前には必ず簡単な整備とチューニングが必要だった。練習と共に整備とチューニングは毎日続いた。

クタクタになっているドラムセットに加えさらにシンバルが割れている・・・。
どうしても良い音で練習したかったので、試行錯誤の結果シンバルの修理も始めた。
チューニング、整備、修理は日常のこととなっていった。

そんな中、以前から描いていたピアノトリオの活動を始めることにした。
しかし始めるにあたって問題があった。
「まず自分のドラムセットを持っていない。もちろん高価なドラムセットを買うお金もない。さらにドラムセットを運ぶ車もない・・・さあ、どうする?」
考えた結果、「よしっ作ろう!費用を抑えてしっかり音の出る最小限の装備、小さな場所でも組み立てられ、電車で持ち運べるドラムセットが欲しい。」と結論に達した。

楽器屋をあちこち周りジャンク品や中古の素材、必要な部品を集め、駅の改札を通れる幅とL字キャリーカートが耐えられる重さの設計で考案したコンパクトなドラムセットが誕生した。
そして知り合った仲間ミュージシャンと一緒に、ホテルのピアノラウンジで演奏を始めた。
“コンパクト・ドラムセット”は駅の改札を通り、混雑するスクランブル交差点を抜け、ピアノラウンジで演奏に溶け込み、終電で詰め込まれる“圧力”に耐えられた。
このドラムセットはそれ以来、ホテル、レストラン、個人宅、ジャズクラブ、学校、祭り、保育園、レコーディングなどで活躍することとなった。
そのうち「僕にも作って欲しい」と言う依頼や、整備や改造、チューニング、シンバル修理の依頼を受け始めた。
ニューヨークで見たドラムテックやドラムビルダーの技術と、小型のドラムセットを持って移動するドラマー達のアイデアを少しずつ自分流にアレンジし、ある時はドラムセット、またある時は工具バッグをL字キャリーカートに載せて現場に向かう日々が続いた。
5話02