ひとつ屋根の下’15 ~2人の工房長~

今回の「卒業生を追え!」は都内の同じスペースでそれぞれ個人工房を開業している卒業生二人を取り上げます。
吉川弦楽器工房代表の吉川晋平さんと弦楽器工房Path代表の石川哲也さん

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吉川弦楽器工房
代表 吉川晋平さん

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弦楽器工房Path
代表 石川哲也さん

Q:どういう経緯で同じ場所で工房を運営することになったんですか?
吉川:元々は別々にやっていたんです。スタジオを経営する会社で正社員で働いていて、働きながら自宅でリペア等を行なっていました。2年くらいで仕事のほうは退職して、その後も自宅を工房にしていたのですが、物も増えてきてどこか場所を探している時にタイミングよく石川君も場所を探していたので、じゃあ一緒にみたいな(笑)

石川:僕もスタジオでバイトをしながら自宅を工房にして作業をしていたのですが、仕事も増えてきたのでそろそろ工房一本でやろうと。それで場所探しを始めました。そんな時にちょうど吉川君も探していたので。タイミングが良かったんですね(笑)

吉川:元々住んでいる家が近くで機材の貸し借りなんかはよくやっていたんですよ。

石川:工房の場所を探していたときに家賃も高いし、機材の導入にもお金がかかるので、一緒にやったらそれらも半分で済むので助かってます。

Q:工房の立ち上げ当初のことを聞かせてください
石川:お客さんは人伝手がほとんどですね。

吉川:僕は演奏の仕事もしていたので、対バンで一緒になったメンバーの人に声をかけたりしていました。「かっこいいギター使ってますね!」みたいな(笑)それで楽器の調整や修理の仕事をしていると名刺を渡して売り込んでましたね。

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学生から有名ミュージシャンまで幅広い楽器を扱う石川さん

Q:同じ場所で工房を構えるメリットは?
吉川:一番良かったと感じるのは、自分がやった作業を見てもらえるということですね。客観的な意見を聞けるのは心強いです。

石川:見てもらってアドバイスをもらえると、自分では気づかなかった部分などに気づけるので本当に助かっています。やり方自体もそれぞれ違うので、効率的な方法を教えてもらえると作業時間の短縮にもなるし精度もかなり向上しますね。

吉川:時間が短縮できるとその分他の部分に時間を取れるのでより良い状態にできます。

石川:お互いに情報交換・共有をしているので経験値は2倍になっていると思います(笑)

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Q:別の工房としてそれぞれ運営しているのはどうしてなんですか?
石川:楽器の修理って主治医制が向いていると思うんです。お客さんからすると同じ人に診てもらいたいと思うので、2人で診るというのはやめたほうが良いと考えています。

吉川:元々自分自身でリペアをしたいと思ったきっかけが、楽器店にリペアを出す時にちゃんと直ってはくるんですけど、誰が直してくれたのかわからないという事に少し違和感を感じていたんです。

石川:お客さんの中でも、顔の見える技術者にリペアをしてもらいたいという方は多いですね。実際に、本当はこの部分を直してもらいたいというところが直ってこなかったりすることもあるみたいで、そういう意味では直接お客さんと話をして細かい要望を理解するということは大切だと考えていますし、それが売りだと思っています。

吉川:うちにくるお客さんのほとんどはそういった方が多いので、喜んでいただいてます。ほとんどの方にリピーターになっていただいているので、とてもありがたいですね。そういう意味でも主治医制が良いのかと考えています。

Q:工房について
石川:アンプ類なんかはそれぞれの趣味ですね(笑)。変なものをたくさん置いてお客さんが作業を待っている間にも興味を持って色々見たり、触ったりして楽しいと思ってもらえる空間にしたいという意識はありますね。

吉川:それを理由に欲しい機材を買ってしまったり・・・(笑)

石川:最近物が増えすぎてしまったので断捨利しました(笑)コンプレッサーとか作業に使う機械なんかは相談して購入するようにしています。

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マニアックな機材や作業用の機械が並ぶ

吉川:実際やっていると、あれがないとかこれがないとかは出てくるんですけど、意外とホームセンターのものでも代用したりすれば何とかなったりしますね。

石川:あとは自分で作る(笑)

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オリジナルの治具「SUPER CHOTTO MOTTE TENER (スーパーチョットモッテテーナー)」

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オリジナル製作の「タイナーシリーズ」

Q:技術者になろうと思ったきっかけは?
吉川:とりあえず大学には行っておこうと思って入学したんですけど、ほとんどバンド活動をしていましたね。元々何かを分解したり、いじったりするのが好きだったので、それと好きな音楽が結びついた感じです。それで大学卒業後に島村楽器テクニカルアカデミーへの入学を決意しました。

石川:僕は高校時代ゴスペルのコミュニティみたいなものに入っていて歌を歌っていました(笑)

吉川:そうなの?(笑)

石川:大学でも歌をやりたくてジャズ研に入ったんですが、そこでギターと出会ってしまいました(笑)卒業後に一度Uターン就職をしたんですけど、一番興味があった楽器修理を仕事にしたいと思って入学を決めました。人生の中で働いている時間ってとても長いので、やっぱり自分が一番やりたいことをやるべきだと思いましたし、親にもらった大切な命を大事に使いたいという気持ちも強かったですね。

Q:実際に技術者として働くことについて
吉川:やりたいことしかやっていないので、もちろん仕事なので大変なこともありますが、楽しいですね。

石川:深夜まで仕事をすることも多いですが、全然気にならないです。

吉川:大変さよりも好奇心の方が強いという感じです。

石川;求める音が出た瞬間に感動があるのでそれが何よりやりがいですね。

吉川:それと、色々なお客さんに会えるのも楽しいですね。変わった人も多いですし(笑)それに色んな楽器に触れることができるというのも楽しさの一つですね。ただの楽器バカなんだと思います(笑)

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ビザールギターを扱うことも多いという吉川さん

Q:将来自分の工房を持ちたいと思っている人へ
石川:やっぱり人を大切にすることですかね。人が人を繋げてくれるので、お客さん一人ひとりを大切にすることもそうですし、それ以外関わる人全てを大切にすることだと思います。

吉川:人を大切にし過ぎて、自分の機材なんでも貸しちゃってますしね(笑)

石川:誰に何を貸しているのかわからなくなっちゃってますね(笑)でも、それでまた工房に足を運んでくれるという。

Q:今後の目標は?
吉川:まずは工房を大きくしていくことですね。今はソフト面で満足してもらうことに重点を置いていますが、ハード面でも満足していただける環境を作りたいと思っています。お茶をしに来てくれるような、ふらっと訪れることのできる工房にするのが理想ですね。

石川:知らない音楽や楽器に「出会える空間」みたいな。

Q:最後に
石川:まずは有名な工房や工場に入ってからでないと独立するのは難しいと思われる方も多いんですが、全然そんなことは無いと思います。「箔が付かないと思っているうちは一生箔は付かない」。実際やっていく中で箔は付いていくので、とにかくやってみることが大切だと思います。信頼していただくことが出来れば自ずと仕事は増えていきます。
仕事をしてみて感じるのは島村楽器テクニカルアカデミーを卒業した時点でかなり高い技術が身に付いているということですね。

吉川:在学中に学ぶ、作業クオリティの基準が一般的に見ても高い基準だったので、ここまでは仕上げてお客さんに返すという自分自身の基準の高さに繋がっていますね。

石川:今野先生の厳しいチェックがあったからこそです(笑)

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