CASE4~ソプラノサックス曲がり調整~

こんにちは。
長く空いてしまいましたが、2015年度も無事終了となります。
学生も多くの事を学んで、進級・卒業していくシーズンです。
という事で、今回は2015年度最後の技術ブログとして管体の曲り修正を紹介します。

今回は実際の破損楽器を修正する過程を簡単に分かりやすく紹介します。
今回の患者(楽器)はソプラノサックスです。
ソプラノサックスはアルトサックスやテナーサックスの管体に比べ、ストレート管(アルトやテナーは2番管と呼ばれますが、ソプラノの場合は本体そのものですね)の曲り修正は技術的に難しいです。

まずは下の写真を見てみましょう。管体の中を覗くとこんな感じです。

ベルの中心と反対側の光の円の中心がズレているのが分かると思います。
上の写真では右にズレています。

今度は外から見ます。


ここまで曲がると一般の方でも良く分かると思います。

この2面からの確認で以下の事を確認して修理をする上での情報とします。
・曲がっている方向
・曲がっている角度
・曲がっている頂点
もちろん、色々な角度から見て上記の細かい情報も見ていき、最終的に上記の情報の精度を上げていきます。

ここからは曲りの修正です。
実は管体の曲り修正は凹みの修正と違い、治具を使って叩くわけではありません。
※もちろん凹みの修正後に皺が入ったり、曲りの元凶が凹みの場合はその部分の修正には板金技術を使用します。

どんな治具を使うかは、楽器の種類をはじめメーカーや機種、曲りの種類や程度、曲がっている箇所によって大きく変わります。
その判断はどこでするのかというと・・・
そこは『経験』と『勘』です(笑)
経験というのは、この修理では無く『似た修理の経験』となります。
また、勘というのは『当てずっぽう』では無く、やってみないと判らないという意味です。
なので、やってみて「これはだめだな・・・」というケースも沢山あります。
その度にやり方を変えて修理品毎に対応していきます。
電子楽器などの修理と違い、この部品を交換すれば直りますという確実な修理技法はないので、どうしても経験が必要になるのです。

さて、今回はどんな治具を使うかというと、こちらです!

先端部が交換できるようになっているテーパー形状の芯金です。
これはソプラノサックスの先端部凹み修正に使用する特殊な工具です。
これを万力に固定します。


この芯金の先端部が曲りの頂点に来るようにしますが、ここでちょっとした問題があります。この先端部が当たっている部分が管体に直接当たり、力が加わると管体に凹みが出来てしまいます。
当然そのヘコミは修正しなくてはいけないのですが、ある部分に先端を当てると凹みにならずに力を強くかける事が出来ます。
その場所は・・・・

知りたい方は是非学院まで足を運んで頂き直接講師に聞いてみてください。


さぁ、続きです。
先程の選んだ治具の先端が上手く曲りの中心に来る様に楽器の角度と治具の挿入距離を考えながら位置合わせをします。
ここからが一番難しい作業になります。
曲りをテコの原理を利用して修正していきます。

分かりやすく図解にすると下の様になります。

この作業は下の写真の様なスタイルで完全に力技になります。

この様に体全体を使って作業をしないと細かい力の微調整が効かず、最悪管体が折れてしまう危険性もあります。

今回は写真の様にソプラノサックスでしたのでベル側から入れていますが、テナーやアルトでは凹みの位置によってはマウスピース側(ネックジョイント側)からアプローチする事もあります。当然この場合は使用する治具の形状も違ったものを選択します。

この作業を少しずつ行い、最終的に直線度の精度を上げていきます。

どうでしょう?
写真だと分かりづらいかもしれませんが、下の写真の様にするともう少し分かるかと思います。

写真の縮尺が若干違うのが申し訳ないのですが、左側が若干曲がっているのが判ると思います。
最後に曲りを修正した際に出ている歪みを直します。

基本的にはここで曲り修正は終了となります。
ただ、金属には元に戻ろうとする力(スプリングバック)という現象が起こるので、一定時間置いて確認をして、もし問題があれば再度修正を行う事もあります。

当然ですがこの後、この楽器は全分解、クリーニング、曲りの影響で発生した不具合(キイガタやキイ曲り等の動作系の不良)の修正と、タンポ調整(場合によってはトーンホールの修正やタンポ交換)を行い、最終的にバランス調整を行ってからお客様の手元に帰って行きます。

作業にかかる実質的な時間は実はそれほど長くないのですが、そこまでの判断をする為の情報収集や方針の検討、経時変化の確認などに時間がかかるので、サックスの管体修正は時間がかかってしまいます。
また、費用も通常の調整修理とは違いかなりかけ離れた金額になってしまいます。
やはり、一番は『落とさない事!!』が一番大切です。

・椅子の上において不用意に楽器から離れない。
・プラスチックフックのストラップを使用している場合は定期的に交換する。
・ストラップで宙吊りにして移動しない。
・移動するときは必ず片手を添える。
・ケースに入れて持ち上げる前に『ちゃんとロックした??』と再確認。

この5か条です。

今年度は今回で終了となります。
管楽器の修理を体験してみたい、もっと修理について知りたい、工具を作ってみたい、など興味を持った方!!
まずは島村楽器テクニカルアカデミーまでお問い合わせください。
では、ありがとうございました。