Special Interview 須川 展也

須川 展也 X 島村楽器テクニカルアカデミー

須川 展也 X 島村楽器テクニカルアカデミー

日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京芸術大学卒業。第51 回日本音楽コンクール、第一回日本管打楽器コンクール最高位受賞。
出光音楽賞、村松賞を受賞。98 年JT 音楽家シリーズCM 出演、02 年NHK 連続テレビ小説「さくら」のテーマ音楽を演奏。
年間コンサート数は約100 公演。海外でも20 カ国以上でリサイタルやマスタークラスを行っている。
これまでに約30 枚のCD をリリース。
最新CD は「サキソ・マジック」。国内外の有名オーケストラと多数共演。
名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱、初演された多くの作品がクラシカル・サクソフォンの主演レパートリーとして国際的に広まっている。1989 年から2010 年まで、東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを務めた。
トルヴェール・クワルテットメンバー、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、東京芸術大学招聘教授。

須川 展也
サクソフォニスト
http://www.sugawasax.com/

夢を持つこと、決して諦めないこと

日本を代表する世界的サクソフォニストである須川展也さん、そして木管楽器のリペアのスペシャリストとして活躍を続ける金澤恭悦先生、島村楽器テクニカルアカデミーの学部長の松田精二先生に、リペアマンの仕事の醍醐味を語っていただきました。

リペアの世界がこれからますます重要になってくると思いますが、島村楽器テクニカルアカデミーが果たす役割とは。

須川:そもそも、楽器を演奏する、教育するだけでなくて、メンテナンスが大事である、という理念が素晴らしいと思います。
車も定期的に点検が必要で、しかも法的に定められていますよね。
楽器は法的ではないですが(笑)。でもそのくらい、点検・修理が大切です。その理念をしっかり浸透させようという姿勢を持たれたということは素晴らしいことだと思います。
この業界は明るくなるな、という期待感があります。良いスキルを持ったリペアマンというのは、どこからも引っ張りだこになる可能性があります。その道のスペシャリストになれる可能性が見える、というのは大きな魅力だと思います。

金澤:当アカデミーでは、各楽器に素晴らしい先生方、海外で勉強された先生、経験豊富な先生が揃っていて、私が学生になりたい、と思うくらいです。学生さんは、リペアの授業だけでなく、他の科の学生さんとも一緒に受ける合同授業もありまして、音楽の授業、楽典の授業等も勉強しますので、凄くバランスの良い音楽院だと思います。私が若い頃はそういう授業を受けたことがないので、うらやましいと思うくらいです。

須川:バランスのとれた勉強は大切ですね。バランスを良くするためにリペアしてもらうわけですから(笑)

金澤:特に人間と人間との付き合いになりますから、一人の人間としても社会に出ても恥ずかしくないような教育を施しています。

須川:学生のうちは分からなくても、社会に出て、分かるということもありますよね。

金澤:そうなんです。今分かってもらえなくても、「将来、あ、先生はこういうことが言いたかった」のだ、ということが分かってもらえれば、それで満足です。

須川:僕も大学の講師を二十数年やっていて、「どうして聞いてくれないのだろう」と思うことはよくありますが、卒業してある程度成長すると、「あの時、言われたことが分かりました」と言ってくれる学生もいます。だから、先生は、みんなで頑張るしかないですね(笑)。

金澤:須川先生を見ていると、分野を問わず演奏される。フランクのバイオリン・ソナタを演奏されたときは、本当にびっくりしま
した。どん欲に新しい世界に入って行かれる。これは凄いな、と思いますよね。

演奏家とユーザーとの対話が重要。

須川:演奏者は楽譜を読む、コード進行に則って演奏する… といった決まりというものがあります。その決まりというものはリペアの方にもあると思います。その決まりをマスターして、そのあとリペアマンの個性が出てくるのだと思います。それは経験がもたらすものでしょう。ですから、どんどん演奏家とぶつかって、とことんまでやる、という姿勢をもっていたら、その方は絶対に名リペアマンになると思います。演奏家の立場としてはリペアマン、そしてリペアという仕事が大事なのだということを、これから演奏家を目指す人に伝えなければいけない。
アマチュアの方にも伝えなければいけない。楽器は音が出れば誰が治しても一緒、ということではなく、とことん音にこだわってほしい。やっぱりこだわる人の方が、演奏家として上手くなる。リペアマンも、こだわる人でなければいけません。また、楽器というのは、どの楽器もそうですが「奏者と楽器との距離」というものが必ずあります。その距離を縮めてくださる人がいないといけない。
夢を持つこと、決して諦めないこと。どんなに良い楽器で、新品であったとしても、最初は「距離」が遠い。もちろん練習しながら、その「距離」を縮めていくのですが、練習しながらも狂いというものが生じますし、経年変化もあります。その都度調整するのですが、そこには、演奏家とリペアマンとの間でしか成り立たない調整というものがあると思います。そのあたりを金澤さんは、本当によく知っていらっしゃる。

金澤:演奏家からすると、楽器というのは身体の一部です。ほんの小さな” 怪我” でも、集中して演奏できない。私たちはまず” マシーン” として、最上の状態にするところから始めます。よくF1 のマシーンと同じだと、私は言います。立派なドライバーがいても、少しでも納得のいかない調整だと良い記録が出ないのと一緒だと思います。

須川 : 木管楽器というのは、キーがたくさんあります。つまり押さえるところがたくさんあるのですが、押さえる手の力、指の力というのは、その人によって全部違います。この指は強いけれど、別の指は弱い、ということもあります。ですから、人によって微妙にタッチ感、バネの感触というものが違います。そういった微妙な部分をリペアの方は覚えなくてはならないです。もちろん押さえてタンポが塞がれば、メカニック的には音は出ますが、全体に強く押さえる人、反対に弱く押さえる人がいるので、そこも覚えていないといけない。サクソフォンもクラリネットもそうですが、” 連結キー” があって、遠隔操作をしないといけないのですが、このメカニズムを調整することも至難の技です。ダイレクトに押さえるのと同じ感覚でないと、早いパッセージを吹くことはできませんから。

金澤:これだけたくさんのキーがある中で、一つでも狂えば、楽器が鳴らなくなってしまいます。毎日使っている楽器ですから、少しずつ傷みが出てくるのですが、なかなか気がつかないものです。意外に本番直前というのは、神経が研ぎ澄まされてきますから、そういった微妙な傷みに気がつくものです。

須川:一生懸命練習したときの本番直前に限って、楽器の不具合が起きたりしますしね(笑)。

金澤:特に本番間際に、調整や修理で呼ばれることが度々あります(笑)。

須川:私がアメリカ演奏に行く当日の早朝に、リペアをお願いしたことがあります。
「タンポが塞がらなくなって音が出ない。悪いけれど成田空港に行く前に、寄っていくからお願いします~!」って(笑)。それで始発で来ていただいたこともありましたしね。

リペアマンを目指す若い方々にメッセージ。

松田:自分がやりたいことをとことんやる、そこがないと先へ進めないですから、まず諦めない。先を見て進む、ということですね。
その意志力があれば、いろいろなことを吸収することができると思います。まずは、自分がやりたいと思ったことは、諦めない、ということが一番大切だと思います。

金澤:私も一緒ですね。この道に進みたい、と思ったら達成するまで諦めないことです。人によってチャンスの時期というものは違いますが、でも、チャンスが来たときのために勉強し続けるということが大切だと思います。そういう意識は大切で、決して諦めないことですね。勉強と思うより、日々の空気のような存在ですね。そういう意識ですと勉強という感覚ではなくなります。
楽しみになります。好きなことは苦ではなくなりますからね。

須川:夢とか、楽しみのために皆さん頑張れると思いますが、具体的に夢の一つ、楽しみの一つとして思い浮かべるといいと思うのが、自分のファンを増やす、ということです。自分を頼ってくれる人を一人でも多く見つける。そこを夢の一つとすることをお勧めしたい。夢として世界一のリペアマンになりたい、と言っても何をもって世界一か、ということもあると思います。世界一という大きな夢もすばらしいけれど、やっぱり、自分を頼るファンをいかに獲得するか、それを目標にすることを楽しみにするといいのではないでしょうか。

金澤:憧れ、例えば演奏家であれば、須川先生のようになりたい、というのも目標として作りやすいですね。
私の知り合いの中でも、リペアマンに憧れて、その道に入った人は何人もいます。