Special Interview 植田秀男

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植田 秀男

ヤマハ株式会社勤務時代、国産初のアコースティックギターシリーズであり、国内外の多くのミュージシャン、音楽ファンから愛されるFG の開発・製作に携わり、アコースティックギターの普及を牽引した。また著名ミュージシャンのギター製作では、日本のギター作りの高い技術と芸術性が見事に融合した作品づくりで評判を呼ぶ。現在は、長年の豊富な現場経験と知識を活かし、島村楽器テクニカルアカデミーギタークラフト&リペア科でアドバイザーを務めるほか、多くの後進技術者の指導・育成にあたっている。

開発とリペア その醍醐味

植田:私はずっとギターの開発に携わって来たのですが、開発中のギターから思い描いていた音が出たときは本当にうれしく思いますね。外観が綺麗に仕上がるのもうれしいですが、やはりギターは楽器ですから、そこから出てくる音がどうなのかというところが一番気になります。

金澤:私は自分の工房でギターのリペアを行っています。リペアをご依頼くださるギターは、当然ながらそのお客様が長年使ってこられた愛着のある一本だと思いますので、リペアをしてお渡しするととても喜ばれます。笑顔で「ありがとうございます。」と仰ってくださることが本当にうれしく思います。

職人に必要なのは技術。
そして人間的な魅力が大切

植田:リペアマンは直接お客様とお会いしてお話ができるからね。私みたいにギター工場で開発に携わってきた人間には分からない部分かもしれませんね。営業の担当者から開発したギターの評判は聞きますが、直接お客様と話をする機会は本当に少なかった。いいなあと思いますね。

金澤:ときどきお叱りを受けるときも( 笑)。基本的にお客様から「直せるか」と聞かれれば「直せます」と答えますので、この仕事を始めた頃は依頼を受けてから困ったこともありました( 笑)。ただリペアの世界は仲間同士のネットワークみたいなものがあって、何か困ったことがあった時は彼らに聞いたりしながら成長してきました。

植田:それは人間関係を構築できているからできることですよね。それを構築できていないとなかなかそうもいかない。技術という仕事をする人には仲間が必要なんですよ。だから職人には技術力と同じぐらい人間的な魅力も必要なんですね。

金澤:そうですね。そういった仲間同士のつながりはこの業界全体の底上げという意味もあると思っています。アメリカなどに比べると日本の職人はいわゆる“ 職人魂” 的な気質が生きていて、職人の中にはあまり人と交流せずに黙々と作業をする方も多いです。これでは職人たちの持つ素晴らしい技術は世間に広まっていきません。職人魂は必要な部分もありますが、もっと自分の技術をオープンにして、仲間同士で切磋琢磨すれば、業界はもちろん社会一般にも職人への理解や敬意が深まり、仕事への魅力を感じてくださると考えています。

植田:確かに日本の技術者はオープンにしたがらない。だから職人の魅力以前に、楽器が壊れたときに直せる人がいることや、壊れた楽器は直すべきだという風潮にすらなっていかない。

金澤:今は、ギターの展示会やギター製作者同士が学ぶセミナーがあるのですが、技術を共有することは横のつながりや技術の継承という意味でも大きいと思います。努力して培った技術であるということは分かりますが、それが途絶えてしまっては意味がありません。どんどんオープンにしていくべきだと思いますね。

開発とリペアの仕事、それぞれの魅力

植田:ギターの開発はゼロからスタート します。ですからまずはどういう手順で、どういう人に協力を仰ぎながら作るかを考える。そしてギターが少しずつ形になっていって・・・、音が出る。その過程が最高に楽しい。音が出たならその音が思い描いていた音なのか。思い描いた音が出なければ悔しいですけれど、今度はそれをどうやって直していこうかという新たな課題を考えて実行していく。こういった一連の仕事が楽しいですね。

金澤 : 植田さんは入社した頃はギターの経験がなかったんですよね。

植田:私はもともとヤマハの工場で楽器を造る機械の設計をやっていました。ただやっぱり楽器そのものを作る仕事がしたくて当時の上司に「なにか楽器を作る仕事をしたいです」と直訴したんです。そうしたら「ギターの仕事があるぞ」と。それまでギターを弾いたことも無ければ触ったことも無い。そんな私に「世界一のギター」を作れと会社は無茶なことを言ってきました( 笑)。当時、私はもちろん国内にもそういったノウハウが全く無い状況の中、たくさんの勉強をして、何とか形にできても音が違う。マーティンやギブソンと比べるとぜんぜん違うことが分かるんです。それでもたくさんの試作品を作って経験を積んで、社内テストで△や○を貰えるようになっていきました。ヤマハはメーカーとして特に耐久性を重視していたので耐久性テストは全ての項目で“ ○ ” にならないと発売できなかった。それらを全てクリアして発売にこぎつけると、今度はまた次の新たな要求が挙がってくる。「マーティンとどこが違うのか?」ということを常に考えながら、片端から課題を挙げてはクリアしていき、本気で世界一のギターを目指していましたね。夜遅くまでの仕事になることもありましたがとても楽しかった。

金澤:基本的に好きじゃないとできない仕事ですね。リペアについて言えば、いろいろなギターを見ることをできることが楽しさの原点かもしれません。ギターの状態や不具合など、同じものは一つとしてありません。どのように直すかというのは答えのない問題ですし、なぜそのような不具合が起きてしまったのかを考えるのも楽しいです。製作も自分の作ったものが世の中に出るという喜びがありますよね。個人・企業に関わらず製作したギターが世間に出て評価されるというのも喜びにつながっていくのだと思います。

これから技術を学ぼうと思っている方へ

植田:世の中は常に変化していますよね。当然仕事に要求されることも変化していきます。ですから若い人には若い感性で世の中に挑まなくてはいけません。私には当時、マーティン・ギブソンの音という目指すべき目標があり、その音を超える為に開発してきました。でも今はマーティン・ギブソンだけじゃないですよね。今までこうだったからという考え方ではなく、時代の変化を若い感性で感じ取り、新しい仕事にチャレンジするべきです。

金澤:私は個人で製作・リペアをしている人たちがもっと活躍できる場を作っていきたいです。日本とアメリカの根本的な違いは、小・中規模の人たちが世の中に出る機会が多いことです。アメリカでは個人でも世に出ていく土壌があるんですね。この道を志す若い人たちには自分でそういう土壌を作っていくんだという気概を持ってほしいです。そして世界に出ていって感性やスケールの大きいメンタリティを養ってほしいです。

植田:もしギタークラフトやリペアの仕事の道を志しながら不安がある方がいるとしたら「なんとかなる!」と伝えたい。ギターに関わる仕事がしたい、と思っているだけで充分自己が確立されていると思うんですね。あとはその気持ちを忘れずに続けていくことが大事。どんな仕事でも面白いから。