「演奏経験なし」からの弦楽器技術者

「演奏ができなくても弦楽器技術者になることができるでしょうか?」
これは来校される方からよく寄せられる質問の1つです。

結論から言えば、演奏能力はなくても弦楽器技術者になることができます。

■「弦楽器技術者」の仕事範囲の広さ
どの様な業種にあっても、仕事は様々なスキルを組み合わせて成るものです。弦楽器技術者の仕事を紹介するとき、よく製作と修理の2通りに分けられ表記されますが、これも厳密には細かいスキルの組み合わせで成り立ちます。演奏ができなくても組み立てられる仕事は多くあります。

■「弦楽器技術者」は客観性がより重要
演奏は瞬発力が要求されます。絶えず時間の流れの中にあって、かつ、合奏であることが殆どですから、全体の変化を一瞬で捉え、コントロールするということが重要です。これは言い変れば、どんな条件下でも一定以上の結果を安定して出せるようにするための能力と言えます。身に付けるには熟練、日々のトレーニングが欠かせません。
しかし、演奏家ではない技術者の重要な点はどちらかと言えば、不具合がわかり、原因を突き止める。更には条件を変えたあとの楽器の演奏状態の予測まで立てられる、といった分析能力の部分なのです。これらは興味を持って勉強をすれば、演奏の技量に大きく影響を受けず誰でもかなり高いレベルまで磨くことも不可能ではありません。

■楽器演奏を網羅することの難しさ
弦楽器にはバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、さらには様々な古楽器なども含まれてきます。それらをすべて「私は演奏できる」と自信をもって言い切れる方は先ずいないでしょう。それでは製作や修理の場合はどうでしょう。バイオリンしか演奏経験がない人であっても、他の楽器にも対応しなければならなくなるケースは珍しいことではありません。
しかし、気持ちの上では理解できても、演奏経験がないことは不安だ、というのが一般的な心情だと思います。弦楽器技術1つをとってみても、得意なものもあれば不得意な分野もあり、周囲の仲間が上手く対応できているときなどスランプに陥ることなどもあるでしょう。
大切なのは、これまで経験がなかったとしても、少しずつでも一生をかかけて理解していきたいという気持ちと少しずつ楽器にふれていく行動だと思います。

■演奏技術を磨き続けることの難しさ
演奏の技量を上げていくことは、よい師に習い、時間をかけて真面目に練習すれば誰でも一定のレベルに達することは不可能ではありません。
ただし、上手くなってくると新しいことを身につけると同様、技量を維持していくことにも気を使わなくてはいけなくなってきます。ここで重要なのはブランクを作らず定期的に継続するということです。そして、このことは弦楽器技術にも言えることなのです。
つまり、限りある時間をどの様に割り当てるかを考えた場合、あれもこれもマスターするという選択肢は現実的でなくなります。自分ができないことは、ためらわず他の人の力に頼る、教えを請う、という素直な気持ちを持つことが大事です。

技術者に取って演奏者と同じような訓練や勉強は必須ではなく、技術者の立場から楽器や演奏者を理解するための視点を増やすことをお勧めしたいということです。

代官山音楽院の本科では、過去の演奏経験の有無に関わらず、1年次にバイオリンの演奏を、2年時にチェロの演奏を学びます。たとえ基礎の経験であったとしても、演奏にふれることは奏者の立場を理解する一歩として非常に大事ですし、またそこを契機として一生演奏にも関わっていただきたいと考えています。

ここまで気難しいことを書いてしまいましたが、やはり好きこそものの上手なれと言いますし、演奏を楽しむ姿勢も重要です。幸い、学科では近年、演奏経験の多少にかかわらず、学園祭などのイベントで在校生が積極的に合奏を楽しむことも増えてきています。
また、講師の弦楽器の演奏経験は、3歳から演奏をしてきた人から、技術者の仕事を始めてから習い始めた人までそれぞれで、演奏を始めることになったバックグラウンドも、弦楽アンサンブル、オーケストラ、吹奏楽、など様々です。
オープンキャンパスや、体験入学などの学科イベントで、講師自身がどんな道筋を経て技術者になったのかというお話をより詳しく聴いていただくことができます。不安であればあるほど、ぜひその壁を乗り越えることを楽しんで、果敢に行動してみてください。