製作家・永石勇人氏来校

4月も後半に差し掛かった天気の明るい日、クレモナを拠点に世界各地で活躍する製作家の永石勇人さんが来校してくださいました。

永石さんは、2015年のストラディヴァリ国際弦楽器製作コンクールにおいて日本人唯一のファイナリストとして表彰され、その時も研修旅行でクレモナを訪問していた私たちの夕食会に出席してくださいました。(余談ですが、実はその後もアメリカのコンクールでもカルテットの最優秀技術賞を受賞されています。)
昨年の南ドイツ・北イタリアの研修旅行の際にも、クレモナの博物館でひょっこりお会いしていたのですが、今回はわざわざ学校まで足を運んでくださいました。

4月になって間もなくということで、1年生にとっては初のプロ製作者の訪問ということもあり、訪問前から一同とても楽しみにしていました。
教室では永石さんのふだんの仕事のことから、アメリカでのワークショップなどを通じて得られた最新の知見も披露していただきました。まだ始めたばかりの1年生には難しい内容も多かったと思いますが、非常に刺激を与えられた2時間半だったのではないかと思います。

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永石さん(中央)を囲んで

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学生へのどんな質問にも真摯に答えてくださいました。
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今回の永石さんの訪問を通じて感じたのは、今、30代の日本人製作家にはとても実力のある人たちが出てきていますが、業界全体を見据えた見識という点では永石さんのような広い考えを持った人がますます求められるのではないかということです。

永石さんは学校訪問に先立ち日本弦楽器製作者協会の園田会長をはじめ、様々な人に各地で会ってきていますが、実力と経験あるベテラン世代と若手世代の協働がアメリカなどに比べてまだまだ少ないことを気にかけておられました。
日本人の製作家が世界の中でも十分な評価を受けていくためには、演奏家の方々の楽器への理解はもちろんですが、われわれ弦楽器の技術にかかわる者が世代を超えて協働していける形を模索必要があるのかもしれません。
アメリカのViolin Society of America などはこちらのブログでもたびたび触れていますが、アマチュアが非営利法人としての組織を運営し、その中でプロやアマチュアが混然一体となってアメリカの弦楽器技術(製作~修理)の評価を高めていこうという空気があります。永石さんもそうした空気にじかに触れてきた人の1人です。

学生から永石さんへの質問の中に「世界での日本人の製作家の評価はどうですか?」というものがありました。
その答えは「(評価そのものがまだ)ないですね。」というシンプルなものでした。
もちろん、個々に優秀な製作家は実は多くいるのですが、世界から見たときに「日本人製作家の評価」というものがほとんど問題にされないような状況であるということが偽らざる永石さん自身の感触なのではないかと理解しました。

学校でも「他の技術者の悪口は言わない」ということを1つの信条としてやってきましたが、それは永石さんのお話ししてくださったように実は世代を超えた協働が私たち職人や技術者には何よりも必要だということを感じてきたためでもあります。

上の世代が威張ってばかりでは若い人は離れていきます。逆に若い世代が上の世代を疎んでは積み重ねてきた技術も見識も継承されなくなってしまいます。上の世代の人は若い人と新しい時代へのマインドをオープンに開くことを求められると思いますし、時には自らの世代では得られなかったものがあることを認める潔さが求められることもあると思います。若い人は今の時代だからこそできる方法で新たな分野を開拓することはあっても、もしそのことで上の世代を無視するようなことがあれば上の世代の技術者は悲しい思いをし、そうした人への痛みはいずれ自分たちへ返ってくるのではないでしょうか。

自分たちの首をしめるような状況にならなければ、自らの有り様に気づけないのが人間かもしれない…とは思いたくありません。いつまでもマイナーな仕事かもしれませんが、弦楽器技術の楽しさ♪♪♪を軸に業界全体でよい気風を生みたいものです。

また、ヤマアラシのジレンマという寓話がありますが、コミュニケーションの妙と難しさはいつの時代にも世代や立場の違いの間に存在し、急にやろうとしてもうまくいかないことはたくさんあります。年輪をはぐくむようにゆっくりと、永く続けられる道を探っていきたいと改めて思いました。

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永石さんのアマティの小型モデルをベースとした新作。自らの研究に加え、先輩方の助言も取り入れ、随所に工夫が見られるすばらしい楽器でした。