リサーチについて

弦楽器職人を目指すにあたって、私自身が先生から言われたことの一つに専門分野に関する「Ricerca (調査、調べること)を続けること」ということがありました。
他にも大切なことがいくつかありましたが、このRicerca(伊・リチェルカ)を続けるということは、島村楽器テクニカルアカデミーにおいても大事にしていることです。

さて、大事にしていると言いましたが、その一方で「勉強をすることの弊害」を感じることもしばしばあります。

弦楽器職人(製作家、修理士、技術者)というものは、手を動かして何かを形にして初めて仕事をしていると言えるのであって、知識をつけることが本分ではありません。
しかし、手を動かし道具を扱うことを身につける前に知識を身につけてしまうとそのことが邪魔して、講師の話を素直に聞けなかったり、勝手に解釈して自己流で進めてしまったりということが起きてしまいます。そのため、「頭でっかち」になるのであれば、むしろ知識も勉強もない方がよいのではないかと思うこともしばしばあります。

インターネットやSNSの発達で、学生たちの情報を得る力や、情報量は、私達講師が弦楽器製作・修理の勉強を始めた時に比べると比べ物にならないぐらい早くなっています。学生たちを見ていると1年もたたないうちに、驚くほどの情報量をもっていていることにうらやましくなることも少なくありません。

問題は情報を情報として扱って、あくまでも手の仕事とは切り離して自分の手の仕事に謙虚に向き合える人もいれば、情報や知識を得ることに逃げ場を探してしまうこともできてしまうことです。
また、中途半端な聞きかじりを情報だと考えてしまう場合も、本分である技術の修得に支障が出ることが少なくありません。
そのような面を見ると、情報はなくとも時間をかけて技術を修得できた時代のよさも感じます。

学校という場所が基本的には知識を得るための場所だという前提がほぼすべて私たち日本人に埋め込まれているので、知識を得ることが何か無条件によいことであるかのように受け止められているようにも思いますが、手仕事を覚える途上では知識は時として大きな障壁にもなることは注意しなければならないことでしょう。

また知識やノウハウを覚えればそれでよいという態度で、基本的な挨拶や報告や相談がその場その場でできない人は、この世界でなくとも、社会人として困難を抱えてしまいます。要領よくその場は切り抜けたとしても、どこかでしっぺ返しを受けるでしょう。ぜひ、周りの人を大事に仕事をしてほしいものです。
さて、小言のようになってきてしまったのですが(笑)実際には講師自身の反省を込めて書いている面も多々あるのです。自戒をこめつつ、今日はこの辺りで終わりにしたいと思います。