クリスチャン・シャボン氏による修理技術マスター講座報告

『クリスチャン・シャボン氏による修理技術マスター講座』
~理論から実技まで~

講師:Christian Schabbon

日程:2008年8月13日(水)~17日(日)

 暑い夏の最中、各地から参加者をいただき、島村楽器テクニカルアカデミーバイオリンクラフト&リペア科専門家向けセミナーとして、「クリスチャン・シャボン氏による修理技術マスター講座」が開催されました。

 これからなるべく簡潔に、セミナーの様子をお伝えしますが、学校の内部スタッフから見ても本当にすばらしい講習会でした。それもこれも、熱心な講師と、熱心な受講生の方々のおかげです。ありがとうございました。

(セミナー・レポート) 
 初日、10時に会場となった島村楽器テクニカルアカデミーバイオリンクラフト&リペア科の1年生教室工房に参加者が集まってきました。
 最初に音楽院マネージャーと講師からの挨拶。そして、設備使用に関するルールの説明があり、その後受講参加者の自己紹介と続きます。
その後、まずは参加者に事前に配られた準備材料&道具リストに基づき、各自が持ってきた楽器や材料・道具を作業台の上に出し、講師が点検の上、5日間の作業の概要をつかみました。

 そして、いよいよ作業。
楽器修理というのは、ケース・バイ・ケースのため、似たような修理というものがあったとしてもまったく同じ修理というのは一つとしてありません。また今回は、セミナーということもあり、すべての参加者が別々の作業に挑戦するのを全員が見ることを通してできるだけ多くの経験を共有できるよう講師の方で個々の内容を考えました。
 その結果、すでに楽器の表板ないし裏板をはずして持参された方もいれば、そうでない方もおられたため、音響箱を開けることから始めたり、すぐに楽器の洗浄を始めて全体もしくは部分石膏型の準備に取りかかる方もいました。

 途中途中、作業の意味や原理を学ぶために理論講義も行なわれました。ホワイトボードに図を描きながらの説明も多くされました。

また、講師の経験からくる様々な話も多くありました。特にシャボン氏の工房ではかつて権威と言われたイギリスのHill 商会の技術や方法も受け継いでいるのですが、長い年月と多くの技術者のたゆまぬ研究の中で、Hill商会の修理方法と現在採用されている修理方法がどのように変わってきたかという話しなども聞かれました。いずれも技術者でなければ気付かないような小さなことですが、逆に技術者であれば必ず気付くことであるだけにそうした話しには説得力があり、これまでの自分たちのやり方を再考する非常によい機会になったと思います。

また、プロジェクターを通してスライドで、ロンドンの工房でこれまでに講師が行なってきた数々の修理の中から今回のテーマに即した一部を見せてもらうこともできました。それにより、今回は「割れ修理」がテーマですが、それ以外にも様々な修理方法があることを垣間見ることができました。

 さて、様々な技法と知識を学ぶ中で、今回の中心となるテーマの一つは「Gクランプ」の使用法でした。講師の言葉を借りればGクランプの使用は、ひとつの方法に過ぎず、それが目的ではないということですが、非常に有効な方法であることは受講生の誰もが感じたことではないかと思います。
 このGクランプも弦楽器専門誌The Strad の2001年に特集が組まれて紹介がされましたが、実際の使用法については様々な原則を知らなければならないため、国内ではまだ使用している技術者は多くないというのが実状ではないでしょうか。
 セミナーでは、材料の用意の仕方から、準備と実際の使用、そして後処理に渡るまでを実践的に学ぶこととなりました。また、途中生じてくる様々な問題やそれに対する対処などの、全員の作業を全員で見て共有しました。



使用時のGクランプ

 初日、2日と最初からかなり盛り沢山の内容でしたが、受講生の方々は懸命にノートをとられ、質問をされていました。
 3日目には、皆さんよくご存知の弦楽器専門誌『サラサーテ』のも取材をいただきました♪ので、もしかしたらセミナーの様子をどこかの号で見ていただけるかもしれませんね。是非皆さんも探してみてください。
 
 講義の内容を事細かにここで説明するとまったく紙面が足りなくなってしまうために控えますが、十年以上の長いキャリアをもつ技術者にとっても「目からうろこ」という言葉が聞かれるほど、一つ一つは微細なことであっても、非常に大事なことを学ぶことができたのではないかと思います。また、近年弦楽器技術学校を卒業したような若い技術者の方々にとっても、ステップ・バイ・ステップで技術を学べる機会はよいものであったと確信しました。そして、一見簡単なことをするかしないかということが仕上がりに非常に大きな影響を与えてしまうということも再認識しました。

 書けば書くほど切りがありませんが、今回のセミナーは難しいニスのリタッチを成功させるかどうかという基礎となる重要な部分が含まれていました。ニスのリタッチ技術をもっておられる方にとっては、その技術を大いに生かす大事な要素が見つかったことと思います。また、これからニスの補彩を学ぶ方にとっても、大事なベースが与えられたと思います。セミナー後は、個々で試し、勉強を重ねる中で実践に生かすしかありませんが、また経験を積んだところでお互いの意見を持ち寄りたいものです。

(むすびに)
 弦楽器の技術は、たとえ修理の分野であっても工房内での伝承という気風がいまだ強いのが現状で、公的な場で広く参加者を募って体系的に技術指導がなされるということがまだまだ多くありません。この分野において長年経験のある参加者からも「今回ほど長い期間にわたり、体系的に一つの方法をしっかりおしえてくれたセミナーは日本では過去になかったと思う」という言葉が聞かれたのも、訳あってのことでしょう。

 また、こうしたセミナーでは、講師は自らの技術を披露することで、講師はその技術を評価されたり、批判されたりすることを覚悟しなければなりません。「日本の弦楽器業界の役に少しでも立てるのならば」という講師の思いがなければ、今回の講習会は成り立たなかったと言えます。その意味で、講師の勇気と思いに改めて感謝したいと思います。

 講習会を開催するにあたり、シャボン氏は「講習会では自分が知っていることで教えられることはすべて教えます。そうでなければセミナーを開催する意味はないでしょう。また、修理・修復の分野においては秘密にすることは意味がないのです。なぜなら秘密にしてしまうとそこで進歩がとまってしまうからです。結局のところ、秘密にするということは自分の可能性を閉じてしまうことになります。」と話していました。そして、その言葉の通り、講習会では参加者一人一人の質問に誠実に対応してくれました。

 また今回の講習会には、出身校、バックグラウンド、経歴に関わらず、「学びたい!」という意欲のある方々が集まってくださいました。参加者一人ひとりの熱意と、マナーのある姿勢がなければこのセミナーは成功しませんでした。ともに技術を共有した同士として材料や道具の購入などで今後も連携をとることができればと考えています。

 最後に今回の開催にあたり、力を貸してくださったすべての方々に感謝いたします!